公的統計データを用いた健康格差に関する社会疫学研究
私たちの健康を決定づけるものはなんでしょうか?個々人の生活習慣?不健康となるのは個人の責任?
答えはNO!です。
私たちの健康には、持って生まれた遺伝子や生活習慣に加え、所得や学歴、住んでいる地域などの社会的な因子も影響するとされています。
健康に影響する社会的な因子「健康の社会的決定要因」に着目し、健康を改善するためにどのように介入するかを検討する学問が社会疫学です。
本教室では、国や自治体が保有する公的統計データを用いた、日本全国および各都道府県内における健康格差のモニタリングとその要因解明に関する社会疫学研究に取り組んでいます。
特に、人々が住む地域の社会環境要因にフォーカスを当てた研究を実施し、健康格差の改善に向けて地域・自治体単位で取り組める介入策に関するエビデンスの構築を目指しています。
一例を紹介しましょう。
2013年に始まった健康日本21(第2次)では「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を主目標に、健康に関する目標設定や生活習慣・社会環境の改善に国・自治体が取り組んできました。これを背景に日本の市区町村間では健康寿命にどれくらいの格差があるのか?という疑問に、地域の困窮度の視点から検証を行いました。
分析の結果、日本の健康寿命は地域の困窮度が高いほど短くなり、最も困窮度が高い地域集団と最も困窮度が低い地域集団の間には、男性で2.32年、女性で0.93年の差があることが明らかとなっています。さらに、最も困窮度が高い地域集団の健康寿命は、他の地域よりも大幅に短いことが初めてわかりました。
シンプルに健康寿命が最も長い地域と短い地域ではこれくらいの差があった、これだけでは健康格差の縮小に向けてどの地域にどの程度介入する必要があるのか判断がつきません。健康の社会的決定要因として「地域の困窮度」に着目したことで、日本における格差の実態、また特に支援を要する地域の存在を明らかにすることに繋がっています。
さらにこの研究はすべて、国が実施・収集している「人口動態統計」「国勢調査」「介護保険事業業況報告」という公的統計データをもとに実施しています。
さらに言えば、自治体が保有するより詳細なデータを活用することで、なぜこの格差が生じているのか、そのメカニズムに迫る研究も可能になります。
公的統計データを活用した社会疫学研究に取り組むことで、地域の社会環境要因の視点から健康格差を明らかにし、地域の実態に即した介入策の検討に資する研究を遂行する、国・自治体の医療・保健行政施策に還元できるような研究を行う、ひいては「健康なまちづくり」を目指す、これがこの研究に取り組む上で大切にしていることです。