医療AI研究

AI Artificial Intelligence 人工知能とは

人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術

東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 教授 松尾 豊

AI(人工知能)は、コンピュータやシステムに人間の知的な機能やタスクを実行させる技術や理論を指します。AIは、さまざまな手法やアプローチを使用して問題を解決し、人間の知的な能力を模倣することを目指しています。

機械学習は、AIの一部であり、コンピュータやシステムがデータから学習し、経験に基づいてタスクを改善する能力を獲得するための手法です。つまり、機械学習は、プログラミングではなくデータと統計的な手法を使用して、コンピュータに学習させる方法です。機械学習は、データのパターンや規則性を見つけ出し、新しいデータに対して予測や意思決定を行うことができます。

深層学習は、機械学習の一種であり、多層のニューラルネットワーク(神経回路網)を使用してパターンを学習する手法です。深層学習では、データを多層の隠れ層に入力し、それぞれの層で特徴や表現を学習し、最終的に出力層で予測や分類を行います。深層学習は、大量のデータと計算リソースが必要ですが、画像認識、音声認識、自然言語処理などのタスクで非常に優れた性能を発揮することがあります。

つまり、AIは人間の知的な機能をコンピュータに実装するための技術や理論であり、機械学習はデータから学習しタスクを改善する手法であり、深層学習は多層のニューラルネットワークを用いた機械学習の一種です。

機械が「学習する」とは?

例えば、上記のような◯と△を2分するような線を引きたい、とします。もちろん人間であれば、簡単にこのへんだろう、と線を引くことができますが、今回は機械が自動的に境界線を引けるように「学習」するためのプロセスをここで説明します。まず、最初にランダムに境界線を引きます。そうすると、その境界線によってわけられたグループがどの程度正しくわけられているか、どの程度間違って分類されているかを計算します。この「どの程度間違って分類されているか」を損失とかLossという言葉で表します。

この損失が少しでも減る方向に機械的に学習して修正していくのが、機械学習のプロセスになります。これを何回も繰り返していけば、最終的に損失が最小になる境界線が求まります。この段階で学習が終了し、ただしく分類されるような境界線を引くことができました。

なぜ深層学習が良いのか?

たとえば、これからある脳波を診断するAIを作るとします。従来の機械学習モデルの場合、脳波から何かしらの特徴を表のデータに一度変換する必要があります。例えば、人間であれば年齢や体重といったそれぞれの個人の特徴量を数字として取り出してくる作業です。脳波の場合、思いつくものでいうと、周波数や最大波高値、スパイク(尖った波)の数・・などなど。これらの特徴を1つの脳波につき、いくつも挙げていき、最終的に表データ(テーブルデータ)にしていきます。そして、その後これらのデータを機械学習モデルに投入することになります。

ところが、深層学習モデルの場合は、この特徴抽出のプロセスがありません。というか、その部分を「自動的に」機械がやってくれるため、脳波のデータをモデルに直接入れることで学習ができます。いいかえると、特徴量抽出を含めて機械学習してくれるモデル、というものが深層学習モデル、ということになります。人間では思いつかないような特徴や複雑なパターンを自動で認識してくれるため、どんな種類のデータであっても(数さえあれば)学習可能になります。

医学へのAIの応用

医療分野において、深層学習は革新的な進歩をもたらしています。この技術は、膨大な量のデータからパターンを抽出し、診断、治療、予防に関する意思決定を支援する能力を持っています。以下では、深層学習が医療にもたらす多くの利点と具体的な応用例について紹介します。

  1. 疾患診断と予測: 深層学習は、画像、生体信号、遺伝子データなどの医療データの解析に利用され、疾患の診断と予測に役立っています。たとえば、ディープラーニングモデルは、脳のMRI画像から脳腫瘍を検出することができます。また、心電図データから心臓疾患を予測することも可能です。これにより、早期の病気の検出と適切な治療の提案が可能になります。
  2. ドラッグディスカバリー: 新しい薬剤の発見は、長く時間がかかる作業ですが、深層学習はこのプロセスを加速する可能性を秘めています。深層学習モデルは、既存の医薬品や生体データからパターンを学習し、新しい有望な薬剤候補を同定することができます。これにより、新薬の開発プロセスが効率化され、治療法の改善や新たな病気への対応が可能になります。
  3. 医療画像解析: 深層学習は、医療画像の解析においても優れた成果を上げています。例えば、乳がんの早期検出においては、マンモグラフィー画像を解析する深層学習モデルが非常に高い精度で腫瘍を検出できることが報告されています。同様に、網膜画像の解析によって糖尿病性網膜症の早期発見や進行の予測が可能になります。

深層学習の医療への応用は、医療の質を向上させ、患者のケアを進化させる可能性を秘めています。しかしながら、倫理的な問題やプライバシーの保護などの課題も存在します。これらの課題を克服しながら、深層学習の力を最大限に活用して、より効果的で効率的な医療システムの実現を目指すべきだと考えられます。